アレルギー相談室


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2019年8月28日 (水)

質問15:エピペンとはどういうものですか?

アドレナリン自己注射薬のひとつで、医療者でなくても素早く決まった量の薬剤が注射できるよう工夫された構造になっています。アドレナリンは緊張したときや怒ったときの動悸や発汗を起こすホルモンで、アナフィラキシーの時には気管を広げたり血圧を上げたりしてくれます。緊急時に、アナフィラキシーショックの進行を遅らせ、病院で治療を受けるまでに取り返しの付かない状態にならないために、アドレナリン自己注射薬は非常に重要です。

日本ではエピペンしかないため、わざわざアドレナリン自己注射薬とは呼ばれませんが、イギリスには3種類(Epipen、Emerade、Jext)ありますので、エピペン以外のものが処方される場合もあるでしょう。日本ではアドレナリン0.15mgの入ったエピペンは体重15kgから30kgの子供に、0.3mg入ったエピペンは30kg以上の子供や大人に処方することになっていますが、イギリスでは体重7.5kgから25kgの子供に0.15mgのエピペン(EpiPen Jr. Adrenaline)を処方、というように基準がかなり違っています。Emeradeというアドレナリン自己注射薬には0.15mgと0.3mgの他に、体重が60kg以上でもっと多くのアドレナリンが必要な患者さん向けの0.5mgのものもあります。

どの量がちょうど良いかは医師が判断して処方しますので、患者さんは「いつでも手の届くところに置いておく」「2本セットで持っておく」「学校にも予備のエピペンを預けておく」「外出時は持って出かける」「使用期限が切れる前に新しいエピペンを処方してもらう」等に気をつけてください。

薬の説明には必ず副作用についても書いてありますが、アドレナリン自己注射薬に関してはとにかく「迷ったら使う」ことが最も大切です。余分な薬を使いたくない気持ちや、薬で何か悪いことが起こったらどうしよう、という不安から使用が遅れることが一番危険なのです。

また救急車を呼ぶことも忘れないようにしてください。(イギリスでの救急車コールは999です。)

日本では救急車の現場到着所要時間の平均は8.5分です。イギリスでは、これにかなり幅があります。なぜなら、イギリスの救急車は対象者の状況によって対応を変えており、例えば日本人の思う「Emergency」は、イギリスでは命に関わる最優先ではありません。具体的には、「Life threatening」な状況に対しての現場到着時間は平均8分未満であるのに対して、「Emergency」では約22分という違いがあるのです。さらに、「Urgent」は「Emergency」よりも時間がかかります。

アナフィラキシーはEmergencyよりも更に緊急度の高い命に関わる(life-threatening)状況なので、必ずanaphylaxislife threateningという言葉を伝えてください。念のためにエピペンを2本持っておくのは、1本目を打った後、5分から15分(日本では10分でと言われます。)してもまだ改善の様子がない時に使うためです。救急車が到着していれば自分で対応しなくても大丈夫ですが、それまでに回復しない時は、2本目の注射ができるかどうかが鍵になります。

アドレナリン自己注射薬のEpiPenとEmeradeは練習用のものをクリニックにおいてあります。処方された時に練習しているとは思いますが、いざというときにあわてないために時々練習してみるとよいでしょう。

 

アナフィラキシーと、エピペンの使い方については、日本語のエピペンのガイドブックがわかりやすいので、ぜひ読んでみてください。https://www.epipen.jp/download/EPI_guidebook_j.pdf

Ambulance response times https://www.nuffieldtrust.org.uk/resource/ambulance-response-times

2019年8月22日 (木)

質問14:子供が卵アレルギーにならないような食べ方や、なってしまった時の気を付け方はありますか?

卵は食物アレルギーの発症頻度が最も高く、また成長と共に食べられるようになる割合も高い食品です。日本では、3歳までに68%、6歳までに73%が卵に対して耐性を獲得したという報告があります。

言うまでも無く卵は卵黄と卵白に分けられますが、それぞれのアレルゲンとしての強さが異なっています。主となるアレルゲンは卵の6割ちょっとを占める卵白で、黄身はアレルゲンとしては弱いためあまり問題になりません。離乳食で卵を始めるとき、固ゆで卵の卵黄からと言われるのはそのためです。

卵白のアレルゲンとしてよく検査されるのはオボムコイドというタンパク質です。主要アレルゲンとしては、多い物から、卵白の60%弱にあたるオボアルブミン、12%にあたるオボトランスフェリン、11%にあたるオボムコイド、3~4%にあたるリゾチームなどですが、この中で最もアレルゲン性が高く加熱や消化に対して安定で抗原性が残るのがオボムコイドだからです。

一般的には、上にも書いたように、卵黄部分の抗原性は弱いので、卵アレルギーで卵を除去している場合、最初に食べられるようになるのは卵黄のことが多いでしょう。加熱が不十分な卵は、まだアレルゲン性が高い状態のままですから、卵が生に近いほどリスクが上がります。たとえばメレンゲやマヨネーズ、シャーベットの中の卵は加熱されていませんので最難関ですし、カスタードクリームや柔らかいスクランブルエッグやオムレツはまだ加熱が不十分です。20分間ゆでた卵でもオボムコイドの抗原性は10%くらい残っていますし、卵がつなぎになっているような食べ物はとても多いので、卵アレルギーがある場合は注意が必要です。(イギリスの食べ物についてはIrish Food Allergy Networkが作成している英語版のEgg Ladderがわかりやすいと思います。)固ゆで卵の場合、ゆでてから1時間もおくと、卵白からオボムコイドが卵黄にしみこむことがわかっていますので、卵白がまだ食べられない段階では気をつけましょう。

それでも、子供の場合は、成長のためにも耐性獲得のためにも、できるだけ完全除去はしないで、食べられる段階の卵を少しずつ摂取していくことがすすめられます。

以前は、アレルギーを起こしやすい食品を離乳食としてなかなか与えなかったり、授乳中のお母さんがそれらを避けて食べなかったりということがありましたが、今はそういうことは否定されています。乳児の皮膚炎の原因が特定された特別な場合以外には、効果が無いことがわかったからです。皮膚から感作が起こることが明らかになっており、口周りの湿疹がそのままになっているとむしろそこから感作されて食物アレルギーになる可能性が上がります。食物アレルギーの予防のために、湿疹や皮膚炎はきちんと治しましょう。

既に卵アレルギーがあることが明らかな場合は、まずは小児科医に相談しましょう。何をどこまで食べられているのか、整理していくことで、今後の見通しができ不安が和らぐと思います。

授乳・離乳の支援ガイド(2019年改訂版)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04250.html

2019年8月15日 (木)

質問13:イギリスに来た年にはスギ花粉症が無く楽だったのに、2年目からは悪化しました。なぜでしょう?

花粉の飛散量によっても症状は変化しますが、花粉による感作がいつ起こったかによる違いである可能性もあります。

人間の体の中に異物が入ってきた時に、体はそれを排除しようとします。これは当たり前のことなのですが、花粉症ではその反応が過剰になってしまっています。排除の仕組みの第一段階として、アレルゲンになる花粉に対して、体の中でそれぞれに対応する特別なIgE抗体が作られます。

第二段階として、作られたIgE抗体は皮膚や粘膜の下のマスト細胞にくっつきます。マスト細胞は、花粉症の鼻水や鼻づまり、咳などを起こすヒスタミンやロイコトリエンなどを出す細胞です。こうして前もって準備されたマスト細胞の上のIgE抗体は、次にその花粉が体に入ってくるのを今か今かと待っているわけです。

この第二段階までの状態が感作です。症状を起こす準備がされていても、ヒスタミンやロイコトリエンが出ていなければ、まだ花粉症の症状は出てきませんので、感作された段階では自分ではわかりませんし治療も必要ではありません。

しかし、アレルゲンさえ再侵入すればそれに反応してヒスタミンなどが放出される状態ですから、その花粉やよく似た性質をもつアレルゲン('交差性の高いアレルゲン'と言います。)にまた出会えば、すぐに症状が出ます。(これを'Ⅰ型アレルギー反応'と呼びます。)

日本でハンノキ(ブナ目花粉で交差性が高い)やカモガヤ(イネ科花粉の代表)に既に感作されていた方は、イギリスでも同じアレルゲンに出会うことになりますから、たとえスギ花粉が飛んでいなくてもすぐに症状が出るでしょう。一方、これらのアレルゲンによる感作がイギリスに来てから起こった場合は、そのシーズン中には症状が出ないか軽いかで、その翌年に初めて本格的な症状が自覚されるということが多いようです。特にイネ科花粉による感作が起こっている時は、イギリスの長いGrass花粉シーズンのせいで症状がかなりつらく感じられるようです。


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