アレルギー相談室


2021年11月27日 (土)

患者さん向け「小児ぜん息治療ガイドライン」から

喘息の症状を繰り返しているうちに、良くない意味で慣れてしまい、「まあこのくらいは」と思ってしまうことがあります。これは大人でも子供でも同じです。

小さいお子さんの場合、保護者が気付いてあげるしかないので、このガイドラインが理解を助けるかもしれません。第8章、第9章は各1ページだけですが、有用な情報が詰まっています。「赤ちゃんの息苦しいサイン」や「強いぜん息発作のサイン」、一度目にしておくだけでもとても役立ちます。

多くの場合、軽い風邪症状など、何か悪化のきっかけがあるので、鼻水や鼻詰まりが始まった時点でPCR検査を受けると後の受診がスムーズですね。

日本小児アレルギー学会 

患者さん向け 小児ぜん息治療ガイドライン 

2020年11月29日 (日)

質問23:アトピー性皮膚炎は日本とイギリスのどちらに多いの?治療は違うの?

厚生労働科学研究の全国調査によると日本では「学童期は11%前後で推移(4ヶ月12.8%、1歳6ヶ月9.8%、3歳13.2、小学1年11.8%、小学6年10.6%)」「全体の傾向を見ると、オーストラリアと北欧はアトピー性皮膚炎の有症率が高く、東欧、中欧およびアジアは低い。平均すると約7%の頻度であり、諸外国と比べて日本はアトピー性皮膚炎有症率の高いグループに属する。」とあります。この調査はインターネットを使って質問表に答えてもらうことでデータを収集したもので、普段医療機関を受診しない患者さんの割合も推測でき、また同時になぜ受診しないのか、ステロイド忌避があるか等も調査できるようになっています。これによると「過去にアトピー性皮膚炎と診断されたことがある人は14.5」でした。

ではイギリスのアトピー性皮膚炎有症率はどうなのでしょうか?日本と違い、イギリスの場合は多くの患者さんが皮膚科ではなくGPを受診します。そのGPでの診断による患者さんの有症率と一般の人から質問表で集めたデータには、実はかなり大きな違いがあり、GPによると1.8%〜9.5質問表によると11.4%〜24.2となっています。この2倍もの違いも考慮に入れた2019年の発表によると、「4歳児の30」「学童期の11%〜20」とまとめられています。残念ながら「平均すると約7%の諸外国」の中にはイギリスは入っていないようです。むしろ、これらの数字から考えると、日本よりもアトピー性皮膚炎で困っている方が多い可能性もあります。

イギリスには多くの病気について、診断・標準的なケア・治療ガイドラインを定めているThe National Institute for Health and Care Excellence (NICE)というものがあり、アトピー性皮膚炎の診断と治療もこれに従って行われます。基本的には日本のアトピー性皮膚炎治療ガイドラインと同じで、①保湿で皮膚のバリア機能を守る・整える(スキンケア)②ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬で皮膚の炎症を減らす(薬物療法)③悪化要因対策、ということになっています。

皮膚を清潔に保つために、日本では「よく泡だてた石鹸で素手で優しく洗い、すすぐ」ことをしていますが、イギリスのNICEには ‘use emollients and/or emollient wash products instead of soaps and detergent-based wash products’ とあります。このあたりは気候や水の違いもありますから、住んでいるところの方法も試してみる方がよいかもしれません。しかし、皮膚表面にとびひの原因になる黄色ブドウ球菌が増えやすいアトピー性皮膚炎では皮膚を清潔に保つということは大切なことですから、皮膚のコンディションをよく見ながら、洗う頻度やケアの方法を変えることが必要になるでしょう。日本でもイギリスでも「洗浄後の保湿はたっぷりと」が基本です。

ステロイド外用薬は炎症を抑えるための第一選択です。前述した日本の全国調査によると、「ステロイド外用薬を使いたくない」というステロイド忌避の患者さんは14.8%、女性の方が男性よりも多く、また高収入であるほどステロイド忌避が多いという結果でした。40年以上前から世界中でステロイド外用薬はアトピー性皮膚炎治療の主力になっており、症状や部位に合わせて、ステロイド外用薬の強さや種類を変えて処方されます。イギリスでももちろんこれは同じです。この全国調査によると、日本のアトピー性皮膚炎の患者さんの半数以上が医療機関を受診していません。また、別の、アメリカ、イギリス、日本を対象にした研究によると、皮膚科医による代替医療使用率は日本が一番多く、ステロイド等を用いた系統的な治療は最も少なかったそうです。もしも日本でかかっていた皮膚科が代替医療だった場合、イギリスの医療機関でそれを継続することはできません。日本では親御さんがお子さんにステロイド外用薬を使うことを拒否して代替医療を取り入れていることもありますが、イギリスではこれは児童虐待のひとつ、医療ネグレクトとして通報される可能性が高いでしょう。

イギリスでも、ホメオパシーや食事制限で症状を悪化させた例の報告や、ケミカルを嫌って使用したオイルで皮膚炎を悪化させた例などの報告があります。また、もともと症状があってもGPを受診していない問題や、更に、GPによるアトピー性皮膚炎の見逃し(正しく診断できていない)の可能性が指摘されています。

正しい診断と、エビデンスのある治療をきちんと継続することが、アトピー性皮膚炎の治療には大切です。それができれば、日英ともに有症率が減少することも夢ではないと思っています。

参考等:

・Atopic dermatitis, asthma and allergic rhinitis in general practice and the open population: a systematic review

・Atopic dermatitis epidemiology and unmet need in the United Kingdom

・NICE: Atopic eczema in under 12s: diagnosis and management

・アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018

・アレルギー疾患対策に必要とされる大規模疫学調査に関する研究;厚生労働化学研究費補助金分担研究報告書

2020年8月 6日 (木)

質問22:日差しが強い日に出てくる皮膚のぶつぶつはアレルギーですか?

紫外線は皮膚にとって害になることが多く、強い紫外線による急性のやけどが日光皮膚炎(日焼け)、また慢性的な影響では光老化が有名です。アレルギーに関係しているものとしては、光過敏性皮膚症の中の「光アレルギー性皮膚炎」「日光蕁麻疹」「多形日光疹」があります。

それまでに経験した日焼けとは違い、日光があたった部分にだけ痒い蕁麻疹が急に出てその日のうちに消えたというのであれば「日光蕁麻疹」の可能性が高くなるでしょう。日光蕁麻疹は物理性蕁麻疹のひとつで、日光に当たることで働くIgE抗体が関係するI型アレルギー(花粉症と同じ)です。

ある薬を飲み始めてから日光に当たった場所が真っ赤になるようになったというのであれば光アレルギー性皮膚炎かもしれません(薬剤に関連する光過敏性皮膚症にはアレルギーではない光毒性皮膚炎というものもあります)。光アレルギー性皮膚炎はIV型アレルギーに分類されます。

また、ご質問のように、日光に当たった部分に湿疹のような細かいぶつぶつ(粟粒大丘疹と言います)が出て痒いという場合は、多形日光疹を考えます。多形日光疹は日光に当たることで皮膚内にアレルゲンになるものが生成されて起こる、自己免疫的なアレルギーと考えられていますが、実はまだはっきりわかっていません。光線過敏性皮膚症の中で一番多いのが多形日光疹です。

治療としては抗アレルギー剤の内服と、日光に当たらないようにすること、残っている皮疹に対してはステロイド外用薬を使います。薬剤が原因になっている場合は薬の変更が必要になるので主治医に相談しましょう。

水疱ができる等の激しい皮膚症状の場合は、専門医による治療が必要になりますので、医療機関を受診するようにしてください。

 

質問21:新型コロナウイルスが流行っていても吸入ステロイドは続けて大丈夫ですか?

新型コロナウイルスの世界的流行で、UKも大きな被害を受けています。UKでは、NHSによるコロナウイルスに対してのリスクの大きさのグループ分けで、喘息を持つ人はmoderate risk groupに、また重症の喘息であればhigh risk groupに分類されています。また治療をきちんと継続することがすすめられています。

一方、7月末には「気管支喘息の合併は新型コロナウイルスの重症化と相関しない」(国立成育医療研究センター、Journal of Allergy and Clinical Immunology 2020)という発表がありました。

ただここで注意しなくてはいけないのは、一般に感じる重症度と医学的な重症度分類のずれです。「重症化と相関しない」という研究結果が正しいとしても、それは「喘息のある人はコロナウイルス感染で息苦しくならない」という意味ではありません。コロナウイルスの重症度分類では、咳は出ているが苦しくないというレベルは軽症です。肺炎になり息苦しくなり入院して鼻から酸素を吸っても、まだ中等症です。集中治療室に入るような状態になれば重症ということになります。つまりこれは、一般的な感じ方では、「喘息があってもICUには入らなくてよかった人が案外多かったね」くらいに言い換えてもいいかもしれません。またこの論文でも実際の治療のステップダウンはすすめられていません。

喘息のある患者さんは風邪やインフルエンザで喘息が悪化することを経験していることでしょう。気管支拡張薬を増やしたり一時的に内服ステロイドを使って対応するような咳き込みや息苦しさ、それによる不眠は本当につらいものです。しかし、この悪化を新型コロナウイルスの重症度分類に無理やりあてはめると中等症にもならないでしょう。たとえごく軽度の症状が似ているとしても喘息発作と肺炎を同じように比較することはできないのです。

またもちろん軽症のコロナウイルス感染の後に喘息が悪化することも十分想像できます。

吸入ステロイドは気管支の粘膜の炎症を抑え、良いコンディションにするために必要な薬です。これを継続することで風邪をひくことが減ったと感じている患者さんも多いことでしょう。コロナウイルス流行中も、処方されている治療薬はしっかり継続するようにしてください。

アレルギー学会からも「新型コロナウイルス感染症流行下での吸入ステロイド薬の安全性について」の発表が出ていますので、時間のある時に一読しておくとよいでしょう。

日本アレルギー学会 https://www.jsaweb.jp/modules/important/index.php?content_id=70

Journal of Allergy and Clinical Immunology   https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(20)30736-3/fulltext

NHS  https://www.nhs.uk/conditions/coronavirus-covid-19/people-at-higher-risk/whos-at-higher-risk-from-coronavirus/

2020年2月13日 (木)

質問20:アレルギーが関係していなくても咳が長引くことがありますか?

もちろんアレルギーが関係しない咳もあります。アレルギーが関係している咳には、咳喘息やアトピー咳嗽、咳優位性喘息、またアレルギー性鼻炎に伴う後鼻漏による咳などがありますが、風邪の後の長引く咳(感冒後咳嗽)や胃酸の逆流による咳、降圧剤などの副作用による咳、肺炎や気管支炎、肺結核などによる咳はアレルギーには関係していません。喘息そっくりの咳き込みが出るマイコプラズマ肺炎などの感染後の咳ももともとのアレルギーの有無とは別です。

診察の際には、まず、いつからどのように始まったか、風邪のような感染がきっかけだったか、熱は出ていたか、痰がらみの咳かそれとも乾いた咳か、痰は出るか、一日のうち特に悪い時間帯があるか(夜の方が日中よりも悪化するか、食事の後に悪化するか)、喉に鼻汁が流れ込む感じがあるか、胸焼けがあるか、以前にも同じような経験があるか、小児喘息があったか等など、最初にたくさんの質問をします。診察室で胸の音を聞いても、その時間帯にはなにもわからないこともよくあるからです。

咳喘息による咳であれば、気管支拡張剤によって改善しますので、診察の中で気管支拡張剤の吸入薬の効果の有無を確認してみることもあります。また呼吸機能検査や呼気NO検査も役立ちます。感染による咳、特に肺炎などを疑う場合は胸のレントゲン検査も行います。

アレルギーかどうかも気になるとは思いますが、隠れている深刻な病気がないか、咳が止まればそれでもう大丈夫か、咳が止まっても長期的にフォローする必要があるかどうかがポイントになるでしょう。

2019年12月30日 (月)

質問19:診断がついていないのに喘息の薬をもらうことがあるのはなぜ?

咳喘息や喘息が強く疑われるけれども明らかな証拠がないという時、気管支拡張剤の吸入薬や内服薬(日本では貼り薬も)を処方されることがあります。このような、治療と診断を同時に行っていく方法を診断的治療と呼びます。現在の症状が咳喘息や喘息によるものであろうと想定し、それに対する治療を開始、もしもそれらの薬で治療効果が見られれば咳喘息や喘息と診断できるという流れです。

喘息は夜の方が悪化しますので受診した時間帯には胸の音が正常ということはままありますし、また咳喘息の場合は気管支喘息と違ってヒューヒューゼイゼイというような胸の音が聞こえず呼吸機能検査では正常ということがほとんどです。レントゲン写真にも写りません。さらに、血液検査で基準値から外れていれば診断できるというものでもないため、他の疾患に比べると診断的治療でしか診断できないことが多いかもしれません。

「気道の気流制限があること」「気流制限に可逆性があること」が特徴であるため、悪い状態の時にその制限を解除する薬(気管支拡張薬)を使い、可逆性があるかどうかを確かめるわけです。受診時に明らかな気流制限があると思われる場合には、その場で気管支拡張剤の効果を確認します。

気管支拡張剤の効果が認められなかった場合は、アトピー咳嗽や感冒後咳嗽、逆流性食道炎による咳などを疑います。

診断には問診もとても重要です。いつからどのような症状があるのか、1日の中で症状に変動があるのか、以前にも同じようなことがあったか、小さい頃に小児喘息と言われていたか等をよく思いだしてみましょう。受診の前に、それまでの経過や使ってみた薬をメモしておくこともとても役に立ちます。

2019年12月28日 (土)

質問18:喘息の原因は血液検査でわかりますか?

喘息や咳喘息と診断されてから、原因を知りたいので血液検査をしてくださいとおっしゃる患者さんがいらっしゃいます。

喘息症状が、ある原因(アレルゲン)をきっかけに発症している場合、それをアトピー型喘息と呼び、その場合はアレルゲンを採血で探すことも可能です。多くの場合は、「犬(猫)を飼っている祖父母の家に遊びに行ったら発作が出た」というように原因と結果が明らかであったり、よくお話をうかがうとハムスターを飼っている等、疑わしいアレルゲンが存在していますが、最も多いのはハウスダスト・ダニによるアレルギーです。このようなアトピー型喘息は小児に多く、小児の場合はアレルゲンを避けることや環境整備が発作を回避するために重要になってきます。

一方、成人で新しく発症した喘息患者さんには、このようなアレルゲンがあるタイプの喘息はむしろ少なく、風邪やインフルエンザなどの感染や過労・ストレスがきっかけとなって発症するタイプが多くなります。このようなタイプの喘息を非アトピー型喘息と呼びます。アレルギー性鼻炎を合併している患者さんも多いため、アレルギー性鼻炎のアレルゲンを見つけることはできますが、このアレルゲンが喘息発作に直結するわけではありません。ただし、アレルギー性鼻炎のコントロールが良くないときには喘息も悪化してくることが多いため、鼻炎のコントロールに役立てるためにアレルゲンを探すということは無意味ではありません。風邪や過労をきっかけに喘息の咳が出るけれども、アレルギー性鼻炎など他のアレルギー疾患は無く、小児喘息もなかったという場合は、残念ながらあまり血液検査が有用とは言えないでしょう。

2019年11月 2日 (土)

質問17:子供のアトピー性皮膚炎がすぐぶりかえすのはなぜですか?ステロイドは効きすぎて心配です。

アトピー性皮膚炎は様々な年齢でみられますが、乳児~幼児期から診断されていることが多いかもしれません。顔や首、肘の内側や手首、膝の裏側などで痒い皮疹が見られます。お子さんでは、痒みが我慢できずかきむしってしまい、かさぶたが付着した状態で受診されることがほとんどです。

汗をかくことや冬の乾燥、花粉の時期に悪化したり、食物アレルギーに関連して悪化したり、女性であれば生理周期で症状が変動したりすることもありますが、いったん落ち着いたように見えても症状がまたぶり返してくるのが特徴の一つです。アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚は、もともと外界の刺激に対するバリア機能が低下しているため、水分を保つことが苦手で、また外からのアレルゲンや細菌などにも弱くなっています。食べ物のみが悪化のきっかけであれば、食事に気をつけることで皮膚炎の悪化を減らせることもあるでしょうが、普通は乾燥などの外側からの条件も影響するため、治療を継続する必要があります。

虫刺されやとびひなどの皮膚症状はその時のみの病状ですから、いったん皮疹が消えてしまえば、それで治療の終了ですが、アトピー性皮膚炎はそうではありません。良くなったと思って保湿剤を塗るのを止めたり、まだ少し皮疹があるのにステロイド軟膏を中止したりすると、もともとのバリア機能の低下のためまた症状が出てきます。

ステロイド軟膏は皮膚表面の炎症を抑えて治療をするもの、保湿剤は皮膚の乾燥を防ぐもの、とその働きは全く違っているので、まだ皮疹がある状態、つまり皮膚に炎症がある状態では保湿剤のみでのケアでは皮疹は治りません。きちんと、触れてみて皮疹がない部分と同じような手触りになるまで(炎症がなくなるまで)処方されたステロイド外用薬を塗りましょう。

良く効く薬なのになんとなく悪い薬と思われているのは、早く止めすぎてすぐぶりかえすせいではないでしょうか。こんなにすぐにぶり返すのに塗ったらすぐによくなるなんて怪しい、と本末転倒の疑いを持つようになってしまっているように思います。(色素沈着もよく言われますが、ステロイド外用薬のせいではなく、炎症によるものです。)

10年程前からアトピー性皮膚炎をコントロールしていくために「プロアクティブ療法」ということが言われています。悪化してから治療を強めていくのではなく、保湿を継続しながら、皮疹の出やすい部分に週に2回ほど前もって弱いステロイド外用薬などの抗炎症治療を加えておくというやり方です。これによって、悪化を防ぎ症状を出さないでおくことが可能になっています。

症状が軽いアトピー性皮膚炎の場合は治療を続け、良い状態を保つことで、年齢と共に寛解(病状が治まっていることをこう呼びます)する割合があがります。悪化させないようにケアを継続することが大切と言うことです。

皮膚炎の部分がじくじくしたり膿が付着したり赤みや熱感が強くなっている場合は、細菌やウイルス(ヘルペスなど)の感染を起こしていることがあります。そういう時はいつも通りの外用薬では治療できませんので、主治医に相談するようにしましょう。

2019年10月31日 (木)

質問16:風邪や肺炎にかかった後から喘息になることはありますか?

感染をきっかけに気管支喘息の治療が必要になる状況はよく起こっています。

まず、普段から喘息を持っている人の場合は、風邪やインフルエンザの感染がきっかけになって、コントロールが悪化し発作を起こしやすくなります。これは患者さん自身が何度も体験して感じていることでしょう。コントロールがうまくいってお薬が減量になっていたのに、咳き込みがぶり返して薬が増えてがっかり・・・というパターンです 。

またそれまで喘息を起こしたことがない人でも、喘息と同じような咳き込みや息苦しさが出現し、喘息と同じ薬剤を用いた治療が必要になることもあります。

感染症としては、小児・成人のマイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎が有名です。これらの病原体は細胞に働くサイトカインという物質を産生させ、アレルギー性の喘息の患者さんの気管支で起こっている喘息発作と同じような状態をアレルギーがない人の気管にも起こしてしまいます。喘息と診断されたことがないにもかかわらず、夜になると激しい咳き込みや喘鳴(呼吸をする時のヒューヒュー音やゼイゼイ音)が出ている時は、これらの感染を疑って胸のレントゲンを撮影したり血液検査を行ったりすることもあるでしょう。このような症状の治療には、感染症自体に対する抗生物質の他に、喘息を治療する時と同じ気管支拡張剤等が必要になります。

中には、その感染をきっかけに、風邪の後は毎回同じような悪化がみられるようになってしまうこともありますが、そのような経過をたどるケースでは、もともとアトピー性皮膚炎があった等アレルギー性疾患を持っていた患者さんが多いと言われています。

乳児期のRSウイルス感染症の悪化でも喘鳴が出ることがあります。残念ながらこれには小児・成人共によく処方される気管支拡張剤やロイコトリエン受容体拮抗薬、もちろん抗生物質も効果がありません。痰がつまって呼吸が苦しそうな時にはA&Eを受診するようにしましょう。

2019年8月28日 (水)

質問15:エピペンとはどういうものですか?

アドレナリン自己注射薬のひとつで、医療者でなくても素早く決まった量の薬剤が注射できるよう工夫された構造になっています。アドレナリンは緊張したときや怒ったときの動悸や発汗を起こすホルモンで、アナフィラキシーの時には気管を広げたり血圧を上げたりしてくれます。緊急時に、アナフィラキシーショックの進行を遅らせ、病院で治療を受けるまでに取り返しの付かない状態にならないために、アドレナリン自己注射薬は非常に重要です。

日本ではエピペンしかないため、わざわざアドレナリン自己注射薬とは呼ばれませんが、イギリスには3種類(Epipen、Emerade、Jext)ありますので、エピペン以外のものが処方される場合もあるでしょう。日本ではアドレナリン0.15mgの入ったエピペンは体重15kgから30kgの子供に、0.3mg入ったエピペンは30kg以上の子供や大人に処方することになっていますが、イギリスでは体重7.5kgから25kgの子供に0.15mgのエピペン(EpiPen Jr. Adrenaline)を処方、というように基準がかなり違っています。Emeradeというアドレナリン自己注射薬には0.15mgと0.3mgの他に、体重が60kg以上でもっと多くのアドレナリンが必要な患者さん向けの0.5mgのものもあります。

どの量がちょうど良いかは医師が判断して処方しますので、患者さんは「いつでも手の届くところに置いておく」「2本セットで持っておく」「学校にも予備のエピペンを預けておく」「外出時は持って出かける」「使用期限が切れる前に新しいエピペンを処方してもらう」等に気をつけてください。

薬の説明には必ず副作用についても書いてありますが、アドレナリン自己注射薬に関してはとにかく「迷ったら使う」ことが最も大切です。余分な薬を使いたくない気持ちや、薬で何か悪いことが起こったらどうしよう、という不安から使用が遅れることが一番危険なのです。

また救急車を呼ぶことも忘れないようにしてください。(イギリスでの救急車コールは999です。)

日本では救急車の現場到着所要時間の平均は8.5分です。イギリスでは、これにかなり幅があります。なぜなら、イギリスの救急車は対象者の状況によって対応を変えており、例えば日本人の思う「Emergency」は、イギリスでは命に関わる最優先ではありません。具体的には、「Life threatening」な状況に対しての現場到着時間は平均8分未満であるのに対して、「Emergency」では約22分という違いがあるのです。さらに、「Urgent」は「Emergency」よりも時間がかかります。

アナフィラキシーはEmergencyよりも更に緊急度の高い命に関わる(life-threatening)状況なので、必ずanaphylaxislife threateningという言葉を伝えてください。念のためにエピペンを2本持っておくのは、1本目を打った後、5分から15分(日本では10分でと言われます。)してもまだ改善の様子がない時に使うためです。救急車が到着していれば自分で対応しなくても大丈夫ですが、それまでに回復しない時は、2本目の注射ができるかどうかが鍵になります。

アドレナリン自己注射薬のEpiPenとEmeradeは練習用のものをクリニックにおいてあります。処方された時に練習しているとは思いますが、いざというときにあわてないために時々練習してみるとよいでしょう。

 

アナフィラキシーと、エピペンの使い方については、日本語のエピペンのガイドブックがわかりやすいので、ぜひ読んでみてください。https://www.epipen.jp/download/EPI_guidebook_j.pdf

Ambulance response times https://www.nuffieldtrust.org.uk/resource/ambulance-response-times


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