アレルギー相談室


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2020年11月29日 (日)

質問23:アトピー性皮膚炎は日本とイギリスのどちらに多いの?治療は違うの?

厚生労働科学研究の全国調査によると日本では「学童期は11%前後で推移(4ヶ月12.8%、1歳6ヶ月9.8%、3歳13.2、小学1年11.8%、小学6年10.6%)」「全体の傾向を見ると、オーストラリアと北欧はアトピー性皮膚炎の有症率が高く、東欧、中欧およびアジアは低い。平均すると約7%の頻度であり、諸外国と比べて日本はアトピー性皮膚炎有症率の高いグループに属する。」とあります。この調査はインターネットを使って質問表に答えてもらうことでデータを収集したもので、普段医療機関を受診しない患者さんの割合も推測でき、また同時になぜ受診しないのか、ステロイド忌避があるか等も調査できるようになっています。これによると「過去にアトピー性皮膚炎と診断されたことがある人は14.5」でした。

ではイギリスのアトピー性皮膚炎有症率はどうなのでしょうか?日本と違い、イギリスの場合は多くの患者さんが皮膚科ではなくGPを受診します。そのGPでの診断による患者さんの有症率と一般の人から質問表で集めたデータには、実はかなり大きな違いがあり、GPによると1.8%〜9.5質問表によると11.4%〜24.2となっています。この2倍もの違いも考慮に入れた2019年の発表によると、「4歳児の30」「学童期の11%〜20」とまとめられています。残念ながら「平均すると約7%の諸外国」の中にはイギリスは入っていないようです。むしろ、これらの数字から考えると、日本よりもアトピー性皮膚炎で困っている方が多い可能性もあります。

イギリスには多くの病気について、診断・標準的なケア・治療ガイドラインを定めているThe National Institute for Health and Care Excellence (NICE)というものがあり、アトピー性皮膚炎の診断と治療もこれに従って行われます。基本的には日本のアトピー性皮膚炎治療ガイドラインと同じで、①保湿で皮膚のバリア機能を守る・整える(スキンケア)②ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬で皮膚の炎症を減らす(薬物療法)③悪化要因対策、ということになっています。

皮膚を清潔に保つために、日本では「よく泡だてた石鹸で素手で優しく洗い、すすぐ」ことをしていますが、イギリスのNICEには ‘use emollients and/or emollient wash products instead of soaps and detergent-based wash products’ とあります。このあたりは気候や水の違いもありますから、住んでいるところの方法も試してみる方がよいかもしれません。しかし、皮膚表面にとびひの原因になる黄色ブドウ球菌が増えやすいアトピー性皮膚炎では皮膚を清潔に保つということは大切なことですから、皮膚のコンディションをよく見ながら、洗う頻度やケアの方法を変えることが必要になるでしょう。日本でもイギリスでも「洗浄後の保湿はたっぷりと」が基本です。

ステロイド外用薬は炎症を抑えるための第一選択です。前述した日本の全国調査によると、「ステロイド外用薬を使いたくない」というステロイド忌避の患者さんは14.8%、女性の方が男性よりも多く、また高収入であるほどステロイド忌避が多いという結果でした。40年以上前から世界中でステロイド外用薬はアトピー性皮膚炎治療の主力になっており、症状や部位に合わせて、ステロイド外用薬の強さや種類を変えて処方されます。イギリスでももちろんこれは同じです。この全国調査によると、日本のアトピー性皮膚炎の患者さんの半数以上が医療機関を受診していません。また、別の、アメリカ、イギリス、日本を対象にした研究によると、皮膚科医による代替医療使用率は日本が一番多く、ステロイド等を用いた系統的な治療は最も少なかったそうです。もしも日本でかかっていた皮膚科が代替医療だった場合、イギリスの医療機関でそれを継続することはできません。日本では親御さんがお子さんにステロイド外用薬を使うことを拒否して代替医療を取り入れていることもありますが、イギリスではこれは児童虐待のひとつ、医療ネグレクトとして通報される可能性が高いでしょう。

イギリスでも、ホメオパシーや食事制限で症状を悪化させた例の報告や、ケミカルを嫌って使用したオイルで皮膚炎を悪化させた例などの報告があります。また、もともと症状があってもGPを受診していない問題や、更に、GPによるアトピー性皮膚炎の見逃し(正しく診断できていない)の可能性が指摘されています。

正しい診断と、エビデンスのある治療をきちんと継続することが、アトピー性皮膚炎の治療には大切です。それができれば、日英ともに有症率が減少することも夢ではないと思っています。

参考等:

・Atopic dermatitis, asthma and allergic rhinitis in general practice and the open population: a systematic review

・Atopic dermatitis epidemiology and unmet need in the United Kingdom

・NICE: Atopic eczema in under 12s: diagnosis and management

・アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018

・アレルギー疾患対策に必要とされる大規模疫学調査に関する研究;厚生労働化学研究費補助金分担研究報告書


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