英国・グリーン通信


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2014年2月 3日 (月)

急性腸炎という病気

一般的に「腸」といえば、十二指腸、小腸、大腸を含めた呼び方です。小腸には空腸、回腸という区別があり、大腸には虫垂、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸という区別があります。厳密にはこれらの区分に「炎症」の「炎」をつけたものが正式な病名となります。これらの細かい区分をまとめて「腸炎」とし、ここに急性や慢性という時間的な分類をあわせて、「急性腸炎」と呼んでいます。

症状は、腹痛(いずれの部分でも起こりえます)、吐き気・嘔吐、下痢(やわらかめの便から水のような便まで)、発熱、下血(血便を含む)、腹部膨満(おなかのはり)などです。症状の程度、種類は個人差があります。

嘔吐、みぞおちの痛みなど、いわゆる「胃炎」症状を伴うものは「急性胃腸炎」と呼ぶことが一般的です。

原因による分類は次のようになります。大きく分けて、感染性と非感染性です。感染性は、細菌性、ウイルス性、寄生虫によるものなどがあげられます。非感染性は、アレルギー性、薬剤性、その他の腹部疾患(胆嚢炎、膵炎、腎盂腎炎や尿路感染を合併した尿管結石、虫垂炎、骨盤内付属器の炎症など)に引き続いておこる二次的な腸の炎症などをいいます。

以下に、いわゆる食中毒として代表的な細菌性腸炎と、最も発生頻度の高いウイルス性腸炎について簡単に紹介いたします。(参考1)

最初に細菌性腸炎の原因菌とその特徴を示します。感染の成立から発症までの期間は報告により若干異なるもので、あくまでも目安です。

 

   (原因菌)    (潜伏期間)     (代表的な感染経路)

  黄色ブドウ球菌  ;  数時間      ; 既製の食品(弁当など)

  腸炎ビブリオ    ;  約半日     ; 生の魚貝類

  サルモネラ     ;  約半日から数日; 生卵、乳製品

  キャンピロバクター;   数日      ; 鶏肉

  腸管出血性大腸菌 ;   数日     ; 特定経路なし (病原性大腸菌O157)

これらは、いわゆる食中毒の原因となることの多いものです。腹部症状が出る前に、これらの食品を摂取したかどうかは、診断への重要な情報となりえます。細菌が便の中で繁殖しているかどうかを確認する為に、便を培養検査します。旅行などの後に発症することのある、いわゆる赤痢菌、コレラ菌、腸チフスなどのいわゆる輸入感染症については別の機会にご紹介いたします。

次はウイルス性腸炎です。

原因ウイルスは多彩ですが、よくあげられるものとして、ロタウイルス、ノーウォークウイルス、腸管アデノウイルス、アストロウイルス、コロナウイルス、コクサッキーウイルスなどがあります。流行頻度として多いのはロタウイルス、ノーウォークウイルスです。コロナウイルスなどは、いわゆる「かぜ症候群」の原因ウイルスでもあるため、かぜの症状を伴っていることが多いようです。細菌性腸炎の原因菌ほど、感染経路は特徴的ではありませんが、ロタウイルスは白色下痢便がみられるという特徴を有します。ノーウォークウイルスは、ノロウイルスやSRSVなどと呼ばれ、集団発生することもあります。(参考2)

これらウイルス性腸炎が疑われる際のウイルス検出検査は、ロタウイルスなど一部において検査キットが利用できます。しかし、大半のウイルスに関する検出検査はその有効性や利便性などの点から、一般的には行われていないようです。

集団発生している場合などは、原因ウイルスを予想することは可能ですが、大半のウイルス性腸炎の診断は、急性腸炎の臨床症状及びその他の原因の除外によりなされることが一般的です。

急性腸炎への対処は、薬物療法、食事療法が基本です。

薬物療法は腸炎のタイプにより若干異なります。一般的には整腸剤(乳酸菌製剤など、腸内細菌のバランスを改善する作用を持つ Probiotics)、止寫薬(下痢を止める作用を持つ Imodium; 一般名Loperamide hydrochloride)、鎮痙剤(腹痛の原因となる腸管の過剰な収縮を抑える作用を持つ Buscopan; 一般名Hyoscine Butylbromide)、抗生物質(原因細菌を殺菌する作用を持つ)、制吐剤(吐き気を抑える作用を持つ Motilium; 一般名Domperidone)などが、症状の程度や予想される原因により組み合わせて処方されます。イギリスでは、抗生物質以外のお薬は市販されていますので、薬局でお尋ねいただく事も可能です。

食事療法についてですが、受診もしくは治療前後にご家庭で可能な対処法としては、基本的に、腸管を安静にして、体の水分不足を予防することが重要と考えられます。

健常な成人の場合は、腹部症状を自覚した時点から、腸に対する負担を軽くするために食事量を減らし、摂取食品などを充分に考慮する必要があります。例えば、満腹感が得られやすい高カロリーの食品、生もの、アルコール及び消化しにくい食品などの摂取は控えたほうがよいと思われます。どの程度の症状までが自宅で様子をみることのできる許容範囲かは判断可能だと思われますが、症状の持続や急激な悪化が見られる場合は、医療機関へ相談されるのが望ましいでしょう。

子供さんの場合は、おおむね次のように対処なさることをお勧めしています。

嘔吐についてです。始まってから最初の5―6時間は、食事に関係なく、嘔吐を繰り返すことがおおいので、飲食は控えるのが望ましいと思われます。その後5-6時間は、特に多量に飲まなければ徐々に吐かなくなります。白湯、お茶、アルカリ飲料などを少量ずつあげてください。嘔吐は、もとの疾患によりやや異なりますが、通常、数時間から1日程度でおさまっていきます。これ以上に持続する場合は、自力での回復は難しい可能性もありますので、医療機関へのご相談が望ましいでしょう。
 

嘔吐が持続する場合は、次にあげる症状に注意してください。うとうとする、ぐったりする、ひどく興奮する、機嫌が悪い、手足が冷たい、唇や舌が乾いている、おしっこが少ない。これらの注意すべき症状が見られる場合は、できる限り早い時期に医療機関を受診する必要があります。

下痢についてです。水分を摂取するとまた下痢が続くので控えたほうがよいのではという意見も耳にしますが、水分を取らないことで、脱水が進行することがありますので、少しずつ摂取する必要があります。水分は、白湯、ぬるいお茶、薄いリンゴジュース、アルカリ飲料、野菜スープなどを、徐々にとるのが望ましいでしょう。

年齢に関わらず、嘔吐や下痢などの症状が落ち着き始めた際の食事は、リンゴのすりおろし、重湯、お粥、野菜のスープなど、柔らかく消化の良いものを摂取して下さい。食材が調達可能であれば、薄味の味噌汁や柔らかめのうどんなども宜しいかもしれません。

脂分を多く含む食事や生ものは、便の調子が比較的もとに戻るまでは避けるのが望ましいと思われます。

今回は、おなかの病気の代表格である急性腸炎をとりあげました。原因や症状の経過は様々であり、個人差が見られますが、日本とイギリスで大きく異なるということはありません。

診療室において使われる用語がどのような役割をもっているか、家庭ではどのように対処したらよいかなどの参考にしていただければ幸いです。

参考1)日本消化器病学会ホームページ

http://www.jsge.or.jp/cgi-bin/yohgo/index.cgi?type=50on&pk=d48

参考2)NHS Choice Norovirus

http://www.nhs.uk/Conditions/Norovirus/Pages/Introduction.aspx


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